脳海綿状血管腫に関すること

弟が3度目の脳幹出血。後遺症は手足の麻痺・軽い言語障害

「お義姉さん。今日の朝、〇〇さんが倒れました。脳幹からの出血です。」

抑揚のない口調で淡々と話す義妹の声。

「面会謝絶です。意識はあります。命に別状はありません。安心してください。変わったことがあったらまた電話します」

留守電はここで切れていた。

私と同じように脳幹部にも海綿状血管腫を持っている弟が、3度目の脳出血を起こして倒れてしまった。

 

脳幹出血の恐ろしさ

脳幹とは

脳をブロッコリーにたとえるなら、大脳や小脳は普段私達が食べているモコモコした緑色の部分。

モコモコに埋もれている太い茎(くき)部分が、ざっくり言って脳幹だ。

大脳や小脳から出ている神経のほとんどが、脳幹という茎に集まって束を作っている。

つまり、身体の多くの機能が集約されている非常に重要な場所にあたる。

 

脳幹部をやられたらどんな症状が出るのか

脳幹部の腫瘍や出血で起こる症状としてよくきくのは複視。ものが二重に見えること。

生命維持に関わる機能をやられてしまう人もいる。たとえば呼吸機能など。

しかし、症状は他にもたくさんある。

大脳や小脳から出ている神経のほとんどが、脳幹という茎に集まっているからだ。

 

出血が脳幹のどこで発生し、どの方向に出血するかによって、どの神経に影響が出るかは分からない。

たとえば束になった神経のうち、右手足に関わるものに影響がおよぶと、手足のしびれや麻痺につながる。

ひとくちに脳幹出血といっても、どんな症状がどの程度出てくるのかは運任せだと。

「神の手」と言われる福島孝則先生が提携してる病院で言われたことだ)

 

私達は家族性の脳海綿状血管腫を持っている

海綿状血管腫は 家族性と孤発性の2タイプ

遺伝によってできるタイプの海綿状血管腫(家族性)と、遺伝したわけじゃなくその人にだけ出来ているタイプ(孤発性)に分けることができる。

弟の場合は家族性で、血がつながっている私や母の脳内にも海綿状血管腫が存在する。

 

家族性の脳海綿状血管腫を持つ弟・私・母(故人)の症状

母は血圧が異常に高く大出血を起こした。植物人間状態を経て重度身体障害者となり、右半身の自由と言語を奪われ、短い生涯を閉じた。

私は脳のあちこちで微出血を続けながらも、なんとかギリギリ自立生活を続けている。出血痕は脳幹にも数か所あるけれど、今のところ致命的な場所は外しているようだ。

弟の病歴は以下の通りだ。

  • 今回の脳幹出血は3回目。最初の出血は20代前半
  • 脳幹出血を起こした後は2回ともガンマナイフを照射してきた
  • 数年前までは複視や頭痛の症状が続いていたそうだが、最近は症状が治まっていた
  • 脳血管奇形以外に慢性疾患はない。中肉中背で血圧は正常値

 

弟と家族の様子を確認せねば

話を元に戻そう。

弟の脳出血を知らせる留守電を聞いて心配したことが2つある。

  • 具体的にどんな症状が出てるのか
  • 義妹と2人の子供は大丈夫か

ほぼ50%の確率で遺伝する脳血管奇形が父親の脳内にあることを2人の子供はまだ知らない、と聞いていた。

これまでに2回の脳幹出血を起こしてはいたが、後遺症が複視と頭痛くらいだったため、外見上は健康な人と変わらない。

それだけに、「命に別状はない」レベルまでの症状で病院に運ばれた父親を見て何を思ったか。夫を見て何を思ったか。

突然のことに相当なショックを受けているに違いない。

 

受話器に手を掛けた。

どんな言葉が返ってくるだろう。

覚悟を決めて受話器を握った。

 

出血時に弟は何をしていたのか

コロナ感染対策のため外来者は病棟に入れない。弟の様子は医師が電話で連絡してくれる仕組みになっているらしい。

そのため義妹自身も入院後の弟の状況を把握しきれていない。

そこで、弟の身体に変化が起きた時に何をしていたのか、そのあと家族がどんな状態になっているのかを話してくれた。

 

  • 毎朝シャワーを浴びてから出勤するのが常だった
  • 左手がしびれ始めた。シャワーの後トイレに行ったときのことだ
  • 高校生の下の子が家でずっと泣いている
  • 病院へは大学生の上の子と一緒に行ったが、コロナ感染防止のため病室には行けなかった
  • 医師が電話で病状を伝えてくれるのを聞くしかない

 

対面するのも怖いけど、会えないことで増幅する不安もある。感染対策ということは、退院するまで見舞いに行けないということだろうか。

まだ気を張り詰めているのだろう。口調はしっかりしている。これが崩れた時が怖い。

負担にならない頻度で電話をかけ、LINEを打ち、弟だけじゃなく家族の様子も知っておきたいなと思った。

 

10日後。義妹と私は泣きながら電話で話していた

仕事も忙しい義妹にひんぱんに電話するのは気の毒だしな、と向こうから電話が来るのを待っていた。

けれどもう10日経つ。そろそろこちらから掛けてみたほうがいいな。

 

質問攻めにしちゃいけない。聞き手に徹しよう。

でもこれだけは伝えたい。

こんな病気を持っているがために、色々な心配や負担を掛けてしまってごめんなさい。本当にごめんなさい。

緊急事態宣言が出ている今、県境を越え、東京を経由してそちらに行くことはできない。その代わり、いつでも電話してね。こちらからも掛けるからね。

私も弟と同じ病気を持ってるから、患者の立場でお話ができる。もし必要だったら私にも遠慮なく声をかけてね。

 

とても長い電話になった。

 

「もしもし。最近どうですか・・・?」

と切り出した次の瞬間、せきを切ったように義妹が話し始めた。そしてどんどん泣き声になる。泣き声のまま話し続ける。

ずっと聞き続けた。話が途切れるまで聞き続けた。

 

「お義姉さん、どうしていいか分からへんのです・・・」

そりゃそうやんね。この状況で冷静でいられる人はほとんどいない。

家族全員が脳血管奇形を持ってる家庭で生まれ育った私とは違う。

 

近日中にリハビリ病院へ転院することになるから、よさげな病院を探しておくようにと言われてるようだ。

症状が分からないと、病院を探すお手伝いができないな。場合によっては、脳外科や脳神経内科がある病院をあたらんといかんかも知れん。

「〇〇さんと電話で直接話すことができます。スマホを持って行ってますから」

・・・ほお。直接話せるようになったのか!それはありがたい。

 

電話番号を聞いて、今度は弟に電凸することにした。

 

弟自身に症状を確認した時の衝撃

これは誰だ?

聞き覚えのない声の男が電話口に出た。発音が不明瞭で何を言ってるのか分かりづらい。

それが私の弟だと分かるまでに数秒かかった。

これまで2度の脳幹出血を起こしてきたけれど、外から分かる後遺症が全くなかった今までとは違う。

心が震えた。

でも冷静に聞かねばならない。しっかり聞き取らねばならない。身体の状態がどうなってるのかを。

 

 

私が弟にたずねたこと

弟は口の筋肉に軽い麻痺がある。何を言ってるのかがはっきりしない。

そこで、YesかNoで答えられるよう、質問をたくさん投げることにした。

質問したことは以下の通りだ。

 

  • 最初に出た症状は何か。身体のどこから始まったか
  • 出血は何センチ大か
  • 過去に出血した血管腫と同じなのか別なのか(脳幹内に血管腫が複数あるため)
  • 入院直後に受けた治療はどのようなものだったか
  • 入院後に症状に変化はあったか
  • 最後に撮ったMRI画像を持っているか
  • 定期健診を受けている病院はどこか
  • 立てるか。歩けるか
  • 手は動くか。指は動くか。どんな風にしびれているか
  • ごはんは普通のメニューか(おかゆやペースト状のおかずではないか)

 

弟自身が語った麻痺の状態

右半身にも左半身にも影響が出ていることが分かった。

 

  • 左はしびれている(最初に出た症状がまだ残ってる)
  • 右半身は力が入らない。足に力を入れても、思った方向に力が入らないので歩けない
  • つかまり立ちと伝い歩きはできる
  • 右指はキーボードを打てない状況
  • 両腕は上がる
  • ご飯は普通食(のみこむ力は保持されてる)
  • 入院直後に受けた治療は点滴。出血を止める点滴など
  • これまで定期検診は受けてこなかった
  • 最後に撮ったMRI画像は、2度目のガンマナイフ照射をした遠くの病院に保管されている。手元にはない
  • 入院してから症状は悪くなってると感じる
  • 土日はリハビリがない。家に帰って動いた方がリハビリになる気がする
  • すぐにガンマナイフをあてたい
  • 車には乗れんやろなあ

 

弟はずーっと症状や心配事について話し続けた。けれども正直言うなら、3分の1くらいは聞き取れず、なんとなく相槌を打って話をつないでいた。

 

STがいるリハビリ病院を探さねば

歩行訓練などを担当する人が理学療法士(PT)。

日常生活上の動作訓練を担当する人が作業療法士(OT)。

言葉を話したりモノを飲み込んだりする機能訓練をしてくれる人がST。

 

STの配置が義務付けられているのは一番上のランクの病院だ。

リハビリ病院は、スタッフの職種や人数によって6ランクに分かれている。

(詳しくは別記事にして後日まとめてみる)

 

弟の家の近くと、義妹の勤め先の近くで、条件に合いそうな病院を探した。

STだけじゃなく、脳外科の医師が診察をしてるところがいい。

神経内科があるとなおいい。薬の調合は神経内科の方が得意だから。

 

ベッドに空きがあることを祈りつつ、候補になりそうな病院のアドレスをLINEで送った。

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ちいでる

家族性多発性脳海綿状血管腫(脳幹・脊髄も含む)を持つ軽度障害者。治療不可。大きめの出血を起こして命を奪われる前に、私が生きた半世紀の記録と経験を書き遺します。具体的には45キロやせたダイエット法・病気や障害をぶち抜いて幸せをつかんだ記録・意外と楽しい今の暮らし・ひとり旅バックパッカーの旅行記など。大阪出身。

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