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Samarka | サマルカの森

障害者の娘として生きた半世紀

【弔辞】私の将来をひらいて下さった先生に この記事を捧ぐ

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その方は、本当の意味で私の恩師だった。お亡くなりになったという一報に接し、この記事を一気に打とうと思う。

高校2年生の夏。進路に関する話をするための三者面談が行われていた頃の話から書こう。

当時はもう、両親ともに重度の身体障害者になっていた。彼らの体調が悪い時は付き添いが必要になる。訪問看護が一般的ではなかったため、必要な時はタクシーに乗せて病院に付き添わねばならない。そのため私は学校を休みがちになっていた。

今後も欠席数が増えるはずだ。ずる休みだと思われないよう、思い切って担任の先生に家庭事情を話すことにした。三者面談より前のことだ。

本当はこの記事の内容は、もっと先に書こうと思ってたことなんだけれど。

こういう家庭で育ったので、私達は色々と差別偏見にさらされていた。福祉制度のお世話にならねばならない経済状況でもあった。

勉強ができれば奨学金をもらって大学に行ける。私はそこに人生の逆転を賭けていた。だから、自分で言うのは変なんだけれど、私は学区のトップ校の学年上位20番以内の成績をとっていた。当時は東大・京大・阪大に100人単位で現役合格する高校だった。

だから、うちの家庭状況の話をきいて、先生は大変驚かれた。

「そんな過酷な人生をあなたは送ってきたんですか。そしていま、こんなに勉強を頑張っているのですか。なんと・・」

そこで先生は絶句なさった。泣いておられた記憶もある。

三者面談は、介護用ベッドに寝ている両親のいる自宅で行われることになった。

「こんな状態なので、この子を大学に進学させられるかどうか・・親戚も大反対なんです。親戚を敵に回すと、入院時の同意書など色々面倒なことになるんです。お金も心配です。まだこの子の下に弟がいるんですが、身体が弱くてあまり勉強もできません。国公立の大学にはいけないでしょう。なけなしの貯金は下の子の学費に充てないといけません。可哀想ですが、娘に掛けてあげられる学費のアテがないんです」

 

父がおずおずと事情を話す父の言葉を先生はじっと聞かれ、天井を見上げてこうおっしゃったのをよく覚えている。

「私は来年で定年になります。数え切れない教え子の前に立ってきました。お世辞なく申し上げます。お嬢さんは、私が指導してきた生徒の中で3本の指に入る立派なお子さんです。学力もあります。学費を免除してくれる大学はいくつもありましょう。返済しなくていい奨学金制度もあります。もちろん日本育英会(当時)の奨学金も使えます。お金の心配は要りません。

問題はご親戚のご意向と、何かあった時の看病体制ですね。一緒に考えましょう。私ができる限りの手を尽くします。

ここまで頑張ってきたお嬢さんの将来の芽を摘んではいけません。お任せいただけませんか?」

私が17歳だったのは、これを書いている時点では35年も前。当時の常識としては、女の子は高卒で十分。それ以上進学するとしても短大。まだ上を望むならお嬢様女子大まで。四年制大学なんかに進学したらまともな就職先がない(現実、バブル期に就職活動をしたが、四大卒の女子学生に門戸を開いている大企業はほぼ皆無だった)。

そんな中、国立四年制大学を志望する娘は結構珍しい存在だ。しかも我が家には障害者の両親がいる。中学時代はまだ母が健常者だったので、高校進学に異をとなえる人はいなかった。ところがいまは違う。

「あの子が大学に行ってしまったら、介護がうちに回ってくるんじゃないの?嫌よねえ・・娘がいるんだから、あの子にさせるべきよ。進学するなんて非常識。なのに、四年制の大学に行きたいだなんて。何考えてるのよ。ぜいたく言うんじゃないわよ。家の事情を考えなさい」

確かになあ・・という気持ちもあった。その一方で、なんとか事情が許すなら、勉強で成り上がりたかった。この家庭環境では結婚するのは無理だろう。だから自分できちんと長く稼げる安定した仕事ができる人間にならないといけない。そう思ってた。

先生はこうおっしゃった。

「失礼なことを申し上げますが、こういう家庭状況だからこそ、あなたは自分で人生を切り開く必要があると思うのですよ。もし進学を希望するなら、私は手を尽くします。安心して勉強して下さい。大丈夫です。あなたは大学に行きなさい。分かりましたか?」

ありがたいと思いつつも、先生それは大変難しいことではあるんですよ・・という気持ちのわだかまりを抱えながら、その言葉を心の中で転がしていた。

高校には、外部(予備校などが実施する)模擬試験があるたびに、無料の招待券が届くシステムになっていた。予備校の実績作りのため、成績優秀者の名前が欲しい。そういうことのようだった。

先生は、高2高3の2年にわたって、進路指導部から招待券を受け取り必ず私に届けてくれた。成績判定表とともに届く解説冊子の後ろには、成績優秀者の名前と高校名が掲載される。私はだいたい全国で40番から50番圏内に名前を残した。ありがたかったので、35年経ったいまでも、その時の冊子は手元に残してある。

「一緒にご親戚の家に行きましょう。いつがいいですか。どなたにお話しをすればいいですか?あの冊子を持ってきてくださいね」

先生はいつも誰に対しても敬語で話される、温厚で小柄な方だった。それがその日の先生の表情には、なにかしら重みと凄みを感じた記憶がある。

父方の親戚、父の兄にあたるおじさんをまじえて、今度は別の形で三者面談をすることになった。先生は色々な方面から説得を試みられた。けれど、親戚からは案の定な返事が返ってくるばかりだ。

ここまで勉強を続けてきた。勉強さえできれば将来が開ける。そう信じてきた。でも、夢はここまでで終わりになるんだな。そうだよな。こんな状況で進学は無理だ。「先生、もうこれで十分です・・」そう言おうとした矢先に

「あの冊子を出して下さい」先生の目が私を見すえた。

「お金の心配はないと申し上げましたよね?通院や入院が必要になった場合は、私の教え子がこの周辺でも開業しています。総合病院にも教え子がいます。開業してる教え子には往診させます。食事は私の妻がお届けします。身の回りのことも、簡単なことであればお手伝いできます。何かあった時は病院に連絡もできます。安心して下さい。

これを見てください。模擬試験の全国順位です。この子は自分の将来を賭けて、自分で身をたてるために、結婚ができなかった時のために、長く続けられる仕事ができるようにと、ここまで頑張ってきたんです。

全国で40番。この子は必ず、とあえて申し上げます。東京は遠くて無理でしょう。でも京都大学なら。それでも遠ければ大阪大学でも。私はこの子の将来を大切にしたいと思っています。

あなた方。この子の将来に責任がとれますか。あなた方に、この子の人生をゆがめる資格はあるんでしょうか。努力を踏みつけてしまうことに罪悪感をお感じにならないのですか。応援する気はないのですか。

立ちいったことを言ってるのは承知の上です。事情はこの子から伺っています。またこの子を見捨てるのですか。

あえて申し上げます。あなた方、それでも人間ですか!」

 

温厚な先生が怒鳴り上げる声を私ははじめて聞いた。そして、そこまでして私を大学に進学させようと準備してくれていたこともはじめて知った。

静かな時が流れた。

 

さらに流れた。

 

私の受験番号は大学の掲示板に書かれていた。

あの時の足のふるえは一生忘れない。

当時、両親は同じ病室で入院中だったので、その足で病院まで急いだ。合格を告げると、声にならない声をあげて2人は泣いた。大声で泣いた。

次は高校へと急いだ。先生はいつものように職員室で書きものをしておられた。

「と・・合格りました」

そこから先は言葉にならなかった。気持ちの張りが切れた。

「そうでしょう、あなたなら。心配はしていませんでしたよ」

にっこり笑って言葉を続けられた。

「合格祝いとして、私の言葉を聞いてください。

あなたの進学にはとても深い意義があります。苦しかったでしょう。辛かったでしょう。

あなたは自分の道をひらくことの大切さを身をもって知っておられる。その経験をかならずどこかで活かしてください。

次に続く方のために、手を差し伸べられるひとになっていただきたい。そのために学問を続け、社会経験を積んでください。

おめでとうございます。よくここまでたどりつきましたね。ご立派です」

先生。ご立派なのは、あなたです。

あれから35年たちましたね先生。大学に行くことができて本当によかったです。

ほんとうに、ほんとうにありがとうございました。

遠くからですが、この記事が先生のおられるところまで届きますよう、願いを込めて一気に打ちました。

お線香代わりです。どうぞお納めください。

私の人生をひらいて下さって、本当にありがとうございました。幸せに暮らしております。先生のことは、死ぬまで忘れません。

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Samarka | サマルカ

18歳からはじめた海外ひとり旅・45キロやせたダイエット・障害者の両親との暮らし・いまの穏やかな暮らし。半世紀生きてきた私の体験が、どなたかのお役に立てば嬉しいです。割引シールとお笑いが好きな関西人です。 詳しい自己紹介ページもあります!パソコンは画面一番上から、スマホは三のマークをタップすると出てきます。

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