障害者と生きる・障害者として生きる

初恋の思い出をぶっ壊してまで信者を獲得したいのか

言葉が話せなくなる前にお礼を言おう

今から登場する男は、この記事の主人公だった男。45年前のことになる。

君は「その男と話すな、僕を見ろ」と言いたかったんだよな?

続きを見る

言葉を忘れる前に伝えたい。13歳の君が見せてくれた世界は美しかった

続きを見る

 

障害者家庭に生まれ、貧民窟と言っていい団地に住み、暴力や犯罪を身近に感じて育っていた私に、この世の光を見せてくれた知的な少年。彼と仲良くなったことで、私は悪事に手を染めずに済んだ。この世の中にはキレイな場所がある。人は信用するに足る。そんなことを私に教えてくれたのは君だ。だからずっと礼を言おうと思ってたんだ、脳出血して言葉を話せなくなる前に。君のお陰で人の道を外さずに済んだ。ありがとうと。

 

この人との付き合いは、11歳の冬から19歳の夏までの長きにわたる。10代の初めから終わりまで、私は彼を恋い、彼も私を恋うていた。ところが、ちょっとしたすれ違いのせいで突然会えなくなるんだ。ケータイなんてない時代だったからね。待ち合わせ先で会えなくなっても連絡する術がなかったんだよ。

 

人というのは、未解決の感情を忘れられない生き物らしい。無理やり心に押し込めても、忘れるために別の恋をしても、気を紛らわすために何かに打ち込んでも。はっきりした別れの儀式がなく、気持ちが冷めて離れたわけでもない。だから気持ちに決着がつかない。時間が経つにつれ激しさは薄れるが完全には消えない。過去を過去にしまい込めず、昔の君と今の君の区別が曖昧になっている。恋愛感情はない。それでもどこかで、昔の君のままでいてくれよと願っていた。

 

聖教新聞に記事が出た

その記事を書き終わった後、なにげなく名前を入れて検索してみた。特許申請に名前がいくつかある。あのころ学んでいた知識を活かし、化学系エンジニアとして業績を上げてるんだな。よかったよかった。facebookには同姓同名の別人が2人。顔も年齢も全然違う。

 

もう1つ記事があった。信仰の力で心を支え、懸命に難病と戦ってる同姓同名の人。また同姓同名の別人かもな。あんなに元気だった人が白血病とか。ボタン一つ留めるのですらもどかしいとか。まったく別人としか思えない。そこは聖教新聞のサイトだしさ。あんまり開きたくないもんな。うん。きっと別人だよ。きっと別人だろうけど。ちょっと確認くらいはしておこうかな。

 

記事を開いた瞬間、顔と名前がパソコンに大写しになった。

!!!

声も出ぬまま椅子を押し倒して後ずさりし、口を強く押さえて呆然とした。激しくむくんでパンパンに膨れ上がってる顔のオッサンが笑ってる。同姓同名なだけでなく、歳まで同じ。やられたわ。

これ、あの子だよ。

名前を伏せられてたら誰だか分からんほど変わり果ててる。ムーンフェイスってやつだ。顔が激しくむくんでる。記事タイトルも不穏だ。相当体調が悪そうだ。こんな形で見つかるとは。こんな身体になっていたとは。そして。君は創価学会の信者だったのか。若い頃の私に光を与えてくれた人の中に、心に大混乱を与えた宗教が同居しているのか。

 

見つけた以上、読まねばならない。白血病の発見、再発、骨髄移植、その後遺症のGVHD。移植した骨髄が全身を攻撃し、関節もも内臓も壊していく病だ。ムーンフェイスになってるのは、GVHDを抑えるために摂取してたステロイドのせいだろう。しかし、ステロイドをとっていたというのに、GVHDを回避することができなかったようだ。

症状の悪化と痛々しい闘病生活が書き連ねられている。信仰の力で心を支えている。一時は命の危機に直面してる。そんな時に池田先生の顔が浮かぶだの、俺にはご本尊があるだの、乾いた布から水を絞り勢いでお題目を唱えただの。創価学会の教義は全く分からないけど、そんなに信仰してるくせに死にそうになってんじゃん。借金踏み倒し系信者のクソばばーも熱心に信仰してたけど、借りた200万では足らず、子供の学費に事欠いてた。70歳を待たずして金欠のまま死んだ。宿命転換とかいう要するに運気向上なんて起こらなかった。なんだよ君もそうなんだ。そんな宗教をなんで信じてんだよ。個人の自由なんだけどさ。なんか理由があるんだと思うけどさ。

「新聞記事に登場する信者は役職付きの人が多いらしいですよ」とTwitterのフォロワーさんが言う。なんだと?君はふわっと信仰してるんじゃないガチ勢なのか。知り合いを見つけたら勧誘し、信者をガッツリ増やしにいく立場だろう。これは困ったな。

 

借金を踏み倒したクソばばーとは違い、この人を憎むわけにいかないんだよ。青春の思い出をアイドル集団の舞台にたとえるなら、君は恩人48不動のセンター。まだ言葉を話せるうちに伝えたい感謝がある。でも、連絡したら確実に勧誘を受けて嫌な思いをする。親が立て続けに死んだのはアンタのせいなんだから学会に入って信心しろ。親が死んでまもない娘に容赦なく罵声を浴びせたばばーの声が蘇る。君もそんなことをするんだろうか。記憶を汚したくない。君を憎みたくない。クソばばーみたいなことをされたら徹底的に潰してしまいそうだ。心が折れてしまう。絶対認めない。苦しむくらいなら叩き潰す。

 

会うか会うまいか呻吟した。連絡を取らなかった後悔をとるか、勧誘される不快感をとるか。私は脳出血で言葉を話せなる可能性がある。そうなってから、「あの時声をかけておけばよかった」と思っても取り返しがつかない。そうだよな、勧誘されても軽くいなせばいい。大丈夫、私はもう小娘じゃない。心に傷を残すようなマネはしない。させない。大丈夫。そう言い聞かせて、「地元の聖教新聞社に知り合いがいるから、取材した記者を探してもらおう。そしたら本人と連絡がつくかもよ」と声をかけてくれた人に、じゃあお願いします、と返事をした。

 

覚悟はしてたが勧誘が始まる

当初わたしが考えていた接触のシナリオはこうだ。

多分積極的にコミュニケーションをとってくるだろう。想定内だ。自分のことを話してこっちの情報を引き出そうとするだろう。よくある手口だ。そういうのを冷静にかいくぐり、こんなメールを送って終わりにしよう。

 

私には脳血管に奇形があり、突然命を奪われたり言葉を奪われる可能性があるんだ。だから、どうしても伝えておきたいことがあって思い切って連絡をしたよ。

君には分かりづらいかもしれないけど、生い立ちや生活環境が過酷だった私にとって、君が見せてくれた世間や日常生活はとても新鮮で温かいものだったんだ。安心して暮らせる世界がある。人に頼って生きても潰されない世界がある。大人は怖くない。驚きだった。そして、文化水準の高い人たちがどんな生活をしているのかもよく分かった。世の中は案外悪いものじゃないんだと思えるようになった。

私の周りには犯罪や暴力が当たり前のように存在してたから、染まらぬように生きていくのがとても大変でさ。一つ間違えば私もそっち側に転んでいたかもしれない。多くのワルが不良化する中学生になる前に君に会えたことで、人生を大きく軌道修正することができたんだ。

君自身は、ただ楽しいから私と接してくれただけだと思う。だから「ありがとう」と言われてもピンとこないことは分かってる。でも私にとって君は人生の恩人なんだ。だからいつか話せる機会が来たら、絶対にありがとうと言っておきたかったんだ。勧誘に応じることができなくてごめん。でもその宗教で、君の心が安らぐといいなと思ってるよ。

 

探してくださいと頼んで数日もしないうちにあっさりと見つかった。そしてすぐに連絡が来た。LINEはできるか?ときたもんだ。昔はお互いの電話番号も知らないで付き合ってたというのに。温度差の違いに思わず苦笑いだよ。宗教の勧誘ってこういうもんだよな。分かってる。分かってた。分かってたんだけど、この時点で心の端っこが欠けはじめた。これから起こることの予想がついた。昔から自分の気持ちのままに進む男だった。しかも人の懐に入るのがうまく、相手に合わせて自然なコミュニケーションが取れる。勧誘を始めたら上手だろう。私をどう攻略するつもりでいるんだろう。

 

それにしてもだよ。こいついきなり勧誘モードかよ人のことを何だと思ってやがる。いたく傷ついた。でも言わねばならない。お礼のメールだけは送らねばならない。送ったらすぐに去ればいい。角を立てずにタイミングを見図らってメールを送ろう。この人のペースにはまるもんか。大丈夫。上手くやれるよ大人なんだし。

ところが、自分が思ってた以上に心の角がどんどん崩れていく。昔のトラウマの影響が心を震度3くらいに揺らしてくる。いきなり倒壊や崩落はしない。立っていることもできる。でも確実にぐらっと揺れる。そのたびに心のかけらが落ちていく。

 

もういやだ。

私は病気を持っててね、と言った瞬間、勧誘のギアが上がった。

もういやだ。止めてくれ。塩を塗った刃物で刺されてる気分だよ。私から冷静さが消えた。

自分を守りたい。でもありがとうを伝えたい。感情の混乱が起こり始めた。

 

 

思い出が憎しみにかわる

勧誘対象としてしか見てないなら、こっちにも考えがある。言いたいことを言うだけ言って困らせてやる。君はもう忘れたのか。ただのクラスメイトじゃなかったはずだろ。ガチ信者は心から良かれと思って勧誘してるのかもしれんが、とにかく大嫌いなんだよ創価学会は。障害年金からの借金を踏み倒したクソばばーみたいに、こっちの心をぶっ壊すようなマネをしたらアンタだって容赦しない。アンタだからこそ容赦しない。私を何だと思ってやがる。

 

昔話を絡めながら、勧誘できそうなポイントを探ってるのが分かる。その手には乗らねえよ。

あなたは泥の中から美しい花を咲かせる蓮のようだとか書いてきやがる。そういうことは付き合ってた時に言って欲しかったな。何十行にもわたって、創価学会の教義が書かれたものがメールで届く。手が動かしづらいって言ってたから、勧誘時のために作った文章をコピペして送ってんじゃなかろうか。それがまた腹が立つ。ただのエサにしか見えてないんだな私のことは。40年経ったんだから仕方ないのかもしれん。

 

「私はこういう理由で創価学会が大嫌いなんだよ」

このブログのこの記事を送り、若い時にどんなイヤな思いをしたのかを分かってもらおうとした。

創価学会信者の親せきがウチの障害年金を財務に流用した話

続きを見る

 

そしたらだよ。

その記事だけでなく、このブログを全部読んだと言うじゃないか。余計なことをせんでいい。幼少期の過酷な生い立ちだけならまだいい。巨デブダイエットとかもギリギリ仕方ない。でもこの記事だけはダメだ。本人が読んでいい記事じゃない。勧誘ネタを探すために読んでることくらい分かる。昔の思い出を勧誘のネタ探しのために読んでやがる。

この記事を読んで、13歳になったばかりの君が私に何をしてたのか思い出したろ。それでも勧誘を続けるんなら、本気で潰すぞ君のこと。私は私の中の思い出を守りたい。昔の君を美しいまま残しておきたい。汚すんじゃねえ。壊すんじゃねえ。本人であってもぶっ潰す。

 

記事を読んだら止めてくれるだろうと思ってた。しかし勧誘の流れは止まらなかった。

この野郎。

私を怒らせたらどんだけ厄介なことになるか、本気で後悔させてやる。

 

冷静さをなくした私の頭の中には、穏便な大人の対応チャンネルが見事になくなっていた。残っていたのは、むき出しの怒りと悲しみだけだった。自分の心と思い出を守りたい。連絡なんかするんじゃなかった。お礼を伝えるだけの目的だったのに、こんな悲しい気持ちにさせやがって。許せない。君だから許せない。私を困らせるのなら、君を困らせてやる。いい加減にしろ。

 

やり返し過ぎて怒りを買う

病気のせいで変わり果ててしまった人には酷なことだとは分かっていた。私が知ってるその人は、人生で一番美しく、健康で、才気にあふれた青年の姿をしている。あの時の君はこんなだったよな。私にこんなことをしてたんだぞ覚えてるか。昔の話をすれば、今の身体とのギャップの大きさを突きつけられることになる。分かってる。そんなデリケートなところを刺激しちゃいけないことくらい。でも止まらないんだ。どうしてもぶつけたいんだ。

昔、こんなことがあったじゃないか、覚えてないのか。私に言ったこと、やったこと、あれは君にとって今やどうでもいいこと、なんなら記憶に残ってないことなのか。思い出させてやる。全部思い出させてやる。君が困ろうと知ったこっちゃない。嫌だと言ってるのに続ける君が悪いんだ。

 

言葉を選ぶことも内容を選ぶこともできなかった。君は大阪城公園の暗がりで私に何をしたか覚えてるか。難波駅の長いエスカレーターを登ってるとき、君はとんでもないことを言ってよな。「男は3日もすれば精嚢が一杯になって外に出さねばならない」ってなんだよいきなり。私は何を試されてるんだ、こんな人の多いところで話していい話題じゃないだろ、ここはラブホじゃないんだエスカレーターなんだ。それとも、そんなこと言ってもいい相手だと見下してんのか?でなければ、男子校に長くいるから感覚がズレてたんだよな当時の君は。それでもな、私は君がファーストキスの相手で本当によかったと思ってんだけどな。どうなんだよ君は。

 

聞かされてる相手は相当困ったと思う。困るように話してるから困ってるに違いない。どうリアクションしていいか分からなくなっていることだろう。なんでそんな昔のことを、しかも身体的接触にかかわるデリケートなことをガンガンぶつけてくるのか。こいつだいじょーぶか?くらいは思われている。いいんだよ、勧誘のカモにしてくるような相手に気遣いなど無用だ。

 

やっと分かりやすい勧誘が止まった。そして次第に、相手の方からプライベートな情報を送ってくるようになった。たとえば住所。職場で感じる惨めな思い。後に遺すことになる妻のためにやっていること。これから受ける手術の詳細。身体がどんな症状に陥っているのかも。傘を握ることもできないから、風がある雨の日は傘をさせず、会社に着くころにはずぶ濡れになっていること。高学歴の若いエンジニアの顔を見ることができず、思わず顔をそむけてしまう惨めな自分のこと。

 

子供の頃からずっとそうだったな。自分の個人情報や悩みをずーっと私に話してた。聞いて聞いて聞いて。そんな子だったよな君は。そんなノスタルジーに浸ろうとする気持ち半分。残りの半分は、「自分の悩みを話すことで、こっちの悩みを引きだそうとしてんじゃねえか」という猜疑心。また裏切られたくない。だから君を信じない。今頃君はどんな男になってんだろうな、と思うことはこれまでに何度かあった。知りたいことが聞けたのはよかった。でも、初っ端から勧誘全開でこられた傷が痛むんだよ。許せないんだよ。

 

昔のように穏やかな気持ちで読むことができなかった。私を思い出せ。本当に好きだったのなら、19の私を思い出せ。心の中にあるのはその思いだけ。大人げないとかみっともないとか、そんな気持ちが湧いてこない。

子供の頃のような交流は生まれなかった。私のリアクションは友好的とは程遠かったと思う。

段々とメールへの返事が遅くなっていった。相手は私から距離を置き始めていった。

 

やっと別離の時が来た

相当困り果てていたようだ。体調の悪さもあっただろう。もう私の相手をする気がなくなったんだと思う。そりゃそうだろうな。本当は君の身の上話を聞きながら、穏やかな交流に持っていければ一番良かった。でも、それが出来るほど、私に冷静な心が残っていなかった。私は君を苦しめ、逃げるしかないところまで追いつめてしまったようだ。メールもLINEも開封されなくなっていった。

 

エサに食いつく魚みたいなことをするからだよ。いきなり前のめりに創価学会の勧誘を始めたからだよ。あとから色んな個人情報や日々の思いを送ってこられても、私はどうしていいか分かんなかったんだよ。冷静でいられなかったんだよ。君を信じられなくなった自分が許せなかったんだよ。そして君を追い詰めてしまったんだ。

 

そんな折、断捨離をしていたら、小学生の時に君が貸してくれた本が出てきた。もう45年も前に借りた本だ。このまま知らんふりして私のところに置いておこうかとも思ったけど、借りパクはよくないわな。住所を教えてきやがったから、そこに手紙をつけて送っておこう。いまどんな体調なのかが分からんので、的はずれなことを書いてたかもしれん。また返事はなかった。もう完全に縁を切りたいみたいだ。

 

ぶった切ったんだよ私が。創価学会の勧誘をしてくる奴は大嫌いなんだ。それが君だったことが許せない。光と影が同居してる存在に耐えられなかった。だからぶっ壊してしまいたくなったんだよ。

 

むかしの君が私を心から大事にしていたことは分かってんだ。11歳からの君を知っている。小学生の頃はなぜかいつも近くの席に座ってた。とにかく話し続けてくる。家のどこに何があるのかまで分かるほど、私は子供の頃の君を知っている。何に悩んでるのか、何が嬉しいのか、どんなことを大事にしてるのか。私は身近でずっと見聞きしてきた。気持ちに正直で、大事にするものは本当に大事にする、育ちのいい少年だった。

10代後半になると、超忙しい部活の合間を縫って私と会ってた。約束の時間に遅れたことは一度もない。責任ある立場にいたから相当忙しかったはずだというのに。友人が吹奏楽部にいたからよく分かる。それでも別れ際に「次は〇日の〇時にここで会おう」と約束ができた。事前にいつなら部活の休みがあるかを考え、確実に会える日時を指定した。指揮者をするくらいだから、部活が終わった後も相当に忙しい。譜面を書いたり勉強したりで大変な立場にいる。休みはとても貴重。その時間を使って私に会いに来てる。

そして、身体的な接触を持つまで非常に慎重だった。丁寧に少しずつ距離を詰めているのがよく分かった。勢いに任せてコトに及ばず、私がやめてと言ったことは絶対にしなかった。何度も何度も寸止めの状態で彼は家に帰る。さぞ辛い思いをしたことだろう。それでも一切不満を言わず、より丁寧に私を守ろうとした。

道路を歩くときは絶対に車道側を歩かせなかった。車道側に行こうとすると「女は車道側を歩くもんじゃない。男は女を守るんだ。車道側を歩くのは俺だ」と怒られた。こんなに大きな女でも、君にとっては庇護の対象になってるのか。

「次に会う時は口紅ぐらい塗ってこい」と言われたこともある。化粧なんてしたことがない。何が似合うのかも分からない。仕方なく何かつけていった。絶対似合ってない。なのに、その次に会った時、「この前、口紅つけてたよな。ああつけてるなあと思ってすごく嬉しかった」とか言って、ぱああっと輝く笑顔でデレた。その表情、小学生の時と同じだったよ。

「中学の時おまえが転校した後、好きな子がいなくなったくらいでダメになっちゃいけないって、必死に頑張ってたんだぞ」とか言ってたな。それが本当なら、12歳の春に告白されてからずっと私のことが好きだったんだよな。そこは疑わなくてもいいんだよな?

 

私は生い立ちの関係上、人を信じることがすごく怖いんだ。子供の頃に親の知り合いの家にたらい回しにされながら育てられてた時、大きなオッサンが私を容赦なく殴り、罵倒し、12月の寒空の下に私を放り出して戸を閉めた。お前は可愛げがないからウチにいて欲しくない。出ていってほしい。そんな記憶があるから私は人を信じない。とくに男は信じない。なまじっか体が大きくて腕力はあるから男はタチが悪い。とにかく本能的に怖い。後退りしたくなるほど男が怖い。そんな中で、私は君を信じたんだ。すごく勇気のいることだったんだよ。そして、君の手に身体をあずけたんだよ。本当に恐ろしかった。でも、君なら大丈夫だと心の底から信じたんだよ。

まさか、忘れてないだろうな?君にとっての初恋は、今も心の中にちゃんと残ってる、そう信じていいんだよな?誰だって初恋は忘れない。ましてや10年も一緒にいた相手なんだから、私のことを忘れてないよな?

 

なのになんで、初手が宗教の勧誘だったんだよ。私は悲しくて死にそうだよ。人を信じた心をバッサリ斬られた思いだよ。斬られたから斬り返した。君が許せなかった。君だから許せなかった。他の人が同じことをやっても、私もこの歳だよ、さらーっとにっこりかわせたよ。それくらいの余裕はあるよ。でも君だけは違う。私を忘れないで欲しかった。信じられる人間であり続けて欲しかった。

ふつうの人には分かってもらえない過剰反応だってこと、分かってるよ十分に。君を困惑させた上に感情を害したことも分かってるよ。

 

私は、勧誘が始まった時から、分かりやすいお別れの儀式をしたかったのかもしれない。私の心が無意識のうちに、今の君を拒絶したんだと思う。

これでさようならができる。後顧の憂いなくお別れができる。今の君は昔の君じゃない。今の君は、知り合いをどんどん勧誘しようとする創価学会員だ。親友だった子も多分ターゲットになっている。同窓会の時はたくさんの子に声をかけて勧誘してたみたいだしな。人を信じることにトラウマを持ってる私は、君の振る舞いに深く傷ついた。だから反応が過剰すぎて、君には理解不能だったんだと思う。

 

19歳の夏、一度待ち合わせが上手くいかなかったことが致命的なすれ違いを生んだ。私たちはお互いの電話番号すら知らなかったんだ。知らなくてもよかったんだ、待ち合わせの時間に必ず君が来てたから。別れ際にはしっかりと次に会う日を伝えてきたから。それができなくなると、お互い連絡手段がないから会えなくなってしまったんだ。

もしあの時、待ち合わせ通りに君が来て、大人になるまで付き合いが続いていたとしたらどうなっていただろう。君の家は親の代から創価学会員だったと初めて知ったよ。それならアレだな。交際が長引いたところで、結婚することはできずに別れただろうな。長く付き合った分だけ、別れは壮絶につらかったと思う。それを思えば、待ち合わせが上手くいかずに離れてしまった悲しさの方が、心の傷はずっと浅くて済んだってことだよな。

 

別れて正解だったんだ。やっぱ創価学会の勧誘をしてくる人はダメだ。君の妻になっていたとしても私は学会員にはなれない。きっと家庭内がギクシャクして、ケンカの絶えない家庭になっていたはずだ。そうならずに済んでよかったんだ。

そう言い聞かせて傷を縫い合わせることにしたよ。今の君は、同姓同名同年齢の別人だと思い込ませるよ。思い出の舞台の不動のセンターにいる人とは別人だと信じさせるよ無理やりに。

 

私はこれからハガキを1枚書く。病身のあなたが困るようなことをしてごめんなさいって、私の方から謝るよ。大人だからね。私だって思いっきり病身なんだけどさ。でもハガキ書いて謝るよ。それで全部終わりにする。最後ぐらいは年齢相応の振る舞いをして別れるよ。 

 

私は、君に連絡をとってよかったんだろうか。

そんなことも全部忘れる。考えない。信じられない人は心の中に入れたくないんだ。今の君がまさにそれだよ。

でも、19歳までの君は一生心の中にいていいよ。あの頃の君は一生信じるよ。

 

+++サンクチュアリ出版にて行いました+++

単独トークライブ 大成功でした!

会場で観覧下さった方から、早速ご感想をいただきました

動画配信なら まだご覧いただけます

動画視聴はこちらから

もし上記リンクに不具合が出ましたら、こちらをお試しください!

動画視聴はこちらから

是非リアルくりからんの迫力を体感してください

2024年10月8日(火)19:30-21:30(19:00開場)
サンクチュアリ出版地下1階イベントホール
東京都文京区向丘2-14-9
地下鉄南北線 東大前駅 徒歩5分

  • この記事を書いた人
  • 最新記事

くりからん

全身に遺伝性の血管奇形があります。脳や脊髄、身体を支える大きな骨に至るまで。出血するたびマヒや発作が強くなるのに、手術は危険なのでできません。そんな人生も半世紀を越えました。老後が見えてきた今。何をしておきたいか。どんな人生を送りたいか。日々考えてます。

-障害者と生きる・障害者として生きる

error: 申し訳ありません。右クリックはできません。

© 2024 ꕥ くり からん ◆ 味わう病人生活 ꕥ Powered by AFFINGER5