生意気で扱いにくい少女
小学生の頃の私は無邪気さに欠け、大人が求める子供らしさや素直さを全く持ち合わせていなかった。
障害者家庭の娘として暮らしてる私は、リアルタイムで世間の理不尽さや冷たさを沢山経験している。弱くて小さいものを可愛いと思うどころか、もてあそんで潰してやろうと企む奴らがたくさんいた。
そのせいか、私の思考目線はどちらかというと、イヤな意味で大人寄り。非常に生意気で強気な子供だった。
授業がヘタクソな新卒教師の授業は、「なんて分かりづらい説明をするんだろう。そこはこう教えたほうがいい」という気持ちで聞く。
ヘンな言いがかりをつけて弱い子をイジメてる奴らがいたら、割って入って謝らせる。
「なんでこんな簡単な漢字が読めないんだろう。なんでこんなチャチなことが楽しいんだろう」と同級生の子達を見ている。
とはいえ、そんなことはおくびにださず、楽しそうな振りをし、一緒にキャッキャと遊んでるふりをした。
すげーイヤな子供だと我ながら思う。
学校の先生は、こんな私にさぞかし手を焼いたことだろう。
これといって問題を起こす児童じゃなかったので、叱り飛ばすことも指導することもできない。
さりとて教師の権力で押さえつけようものなら、余計に事態は悪化したことだろう。
この地区で「あの子に逆らったらタダでは済まない」と誰もが認めるワルに、私は時々勉強を教えてあげていた。私のバックにはその兄ちゃんがついているってことだ。
しかも私自身が「少々のことは屁ぇでもないわ。ヘンなことしてきたら、世論を味方にして理詰めで潰す」という、悪い意味で根性の据わった少女だった。
世論などとガキのくせに生意気なんだけど、
私は自習の時などには、解き方が分からない問題を教えてくれ、とやってくる同級生に勉強を教えてありがたがられ、
我が家がテレビのドキュメンタリーで取り上げられたお陰で、「辛い境遇の中で精いっぱい生きている子」というポジションにいた。
こういう子を、正当な理由ないのに教師がイジメると目立つし反感を買う。学級運営がますますやりにくくなる。
今思えば本当に気の毒な事をした。
私はグレてはいなかった。心が冷めていた。それだけだ。
意味不明な転校生がやってきた
そんなヒネた少女がいるクラスに転校生がやってきたのは、小学校5年生の3学期のことだ。
私が当時住んでいたのは低所得者向け団地が多い地区。なのになぜか一部だけ、そこそこ裕福そうな人達が住むエリアがあった。
彼が住むことになったのは、日本の誰もが知ってる企業の社宅。
この頃になると、私の周りは平穏になっていた。怖くて誰もちょっかいをかけてこなかったからだ。
だから転校生が見たのは、心の刃物をしまい込んだ私。大きいけれど人畜無害な私。
やがて転校生のうちのひとりはクラスの人気者になっていく。
どんなタイプの子とも上手くつきあえる。頭の回転が速いんだろう、とっさの返しも上手い。
育ちがいい子は違うなあ・・と、また私は遠巻きに見ていた。
ところがやがて、遠巻きに見ていることができなくなってしまった。
何がツボったのかいまだによく分からんのだけど、向こうから近付いてくるじゃないか。
席が隣になった時には「授業中だぞオマエだいじょーぶか?」とあきれるくらい、延々と楽しそうに話し続けて笑っている。
当然のことながら、これは本人ではない。フリー素材をダウンロードしただけだ。本人はもっと大人びた顔をした小学生だった。
世の中には不思議な少年がいるものだ。
教室には、小柄で華奢で可愛くて素直な女子がたくさんいるというのに。
はっきり言って、アンタのことが好きだという子は何人もいるんだぞ。知ってるよな?
勉強ができて足が速くて背が高く、端正な顔立ちで面白い奴はモテるもんだ。
私と話してて何が面白いんだろうな。相槌うってるだけだぞ。育ちのいい子が考えることは意味不明だ。
とにかくよく分からんけど、聞いてて面白い話ばかりなので、時々感想を言いながら話を聞くことになった。
お陰で私は、その子の家庭事情を沢山知ることになる。
お兄ちゃんはビートルズのファン。
お母さんはネコ好き。
明日着ていく服は自分で選んで枕元に置いてから寝るようにしていること。
勉強机の形状、引き出しの中身、前の学校で好きだった女の子のこと。
岡田奈々によく似た線の細い美人だそうだよ。しらねーよ。
その子の名前は「かんな」ちゃん。ますますどーでもいいよ。こいつ、どうしたんだ、大丈夫か?
それ以降、カンナという花や岡田奈々というアイドルを見るたびに、何なんだよこれは、という感情を持て余すことになる。
そうだ。
宇宙戦艦ヤマトの絵を、私がノートの背表紙に描いた時のことも思い出した。
我ながら上手に描けたわ♪ と満足してたら、ヤマト好きな男子がそれを見て話しが盛り上がり始める。
ヤマトで一番好きなのは、登場人物じゃなくて戦艦ヤマトのフォルム。カッコいいよなあ、うん。そうそう。
・・と気持ちよく話してたら、背後から突然ノートをひったくる奴がいた。
何しやがる?私にケンカを売るつもりか誰だよてめえ。
振り向いたら、「かんな」ちゃんが好きだった男が、あろうことか私の力作の上にボールペンで殴り書きを始めとるじゃないか。
「こら何すんねんアンタ?どうしてくれるんや!!」
私にケンカを売れる奴に出会ったのは何年ぶりだろう。ええ度胸しとるやないか。にらんだのに顔色一つ変えない。むしろなぜか怒っている。謝りもしない。
同年齢の奴から売られたケンカを買わなかったのは、12年の人生の中でこれが初めてだ。
分かっていた。
この子はケンカを売りたいんじゃない。こっちを見ろと言いたいんだと。
それから数か月後、宇宙戦艦ヤマトのカードがたくさん入ったファイルをくれた。友達と交換したりして集めたそうだ。
家に帰れば障害者の父がいる。仕事をしていないからずっと家にいる。柔らかいボールを転がしながら弟と遊んでいる。
学校に行けば、率先してオノレの個人情報をしゃべりまくる面白い同級生がいる。
穏やかな季節はもう少し続く。
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