家事を外注するのは案外大変だと 両親が介護ヘルパーさんのお世話になった時に思った
「夫の家事能力が高くなくても、年収が高ければよくない?たくさん稼いでくれたら、家のことなんて家政婦をお願いすればいいんだし」
そういう意見をネット上で時々みかける。価値観は人それぞれ。家庭の数だけ正解がある。お手伝いさんを雇って悠々自適に専業主婦ライフを満喫できたら楽しい・・・のかも知れないけれど。
私の意見はその逆だ。
年収はほどほどでいいから、家事能力が高い人と暮らしたい。恩着せがましくなく、当たり前のように家事ができる男性を伴侶にしたい。理由は4つほどある。
ひとつめ。家事はお金を出して外注すればいいと言うけれど、家の中に他人さんを入れるのは案外大変なことも多い。障害者の両親が介護ヘルパーさんのお世話になっていた時期があるんだけど、ごくまれに(だと思いたい)、家の中のものを持って帰る人がいた。両親の移動範囲はベッドとその周辺だったから、離れた部屋にあるものにまでなかなか目が行き届かない。盗もうと思えば簡単に盗みをはたらける。
ふたつめ。そこまでの話じゃなくても、ヘルパーさんの機嫌を損ねると、手を抜かれたり乱暴な扱いをうけることもある。ヘルパーさんとのやりとりには非常に気を遣った。
みっつめ。住み込みの家政婦さんじゃないから、困った時にすぐ手を貸してくれるわけじゃない。週に数回、数時間の間やってきて、料理や掃除をしてくれるサービスだ。それ以外の時間に起こることは自分たちで何とかしなきゃならない。だから基本的に、安心して家事代行サービスを利用できるのは、若くて元気なうちなんじゃないかな。
よっつめ。残念なことに世の中には悪い人間もいる。高齢者や障害者の足元を見る人がいる。家に人を入れると間取りや貴重品のありかを知られてしまうので、あとから強盗に入られるかもしれない。
家事ができない身体になった今、「おとーちゃんが全部やってくれるから幸せだ」と繰り返し言ってた義母のことを思い出す
義母が生前、私と会うたびに言い続けてきた言葉が今も心から離れない。
「わたい、リウマチで指がこない曲がってしもて。家のこと、なんもよぉせんよぉになってしもたんやけどな。
お父ちゃんがおるさかいに。お父ちゃんがおって、何でもちゃーんとしてくれるよってに、ほんまに助かってますねんわ。
お父ちゃんがおるさかいに、わたい、ほんまにありがとぉて」
(私、リウマチで指がこんなに曲がってしまって。家のこと、何もできなくなってしまったんだけどね。
お父ちゃんがいるから。お父ちゃんがいて、何でもちゃんとしてくれるから、本当に助かってるんですよ。
お父ちゃんがいるから、私、本当ににありがたくて)
毎回、満面の笑みで私にそう言い続けていた。
片道6時間もかかる距離に住んでいるので、日々の家事を私が代行するわけにはいかない。幸い義父が元気で、一通りの家事をこなす能力と意識がある男性だったので、義母は傷んだ身体を酷使して家事を続ける必要はなく、穏やかに療養することができていた。
夫が言うには
「おかーちゃんは人にすごく気をつかうタイプやから、お金に困ってなくても家政婦さんを頼むことは逆にストレスになる。オヤジが家のことをできる人間でよかったよ」
とのことだった。
私も同じタイプの人間なので、夫が義父同様に家事を一通りまわせる男だったことが心底ありがたい。
一人でいるのが好きな陰キャにとって、週に何回も決まった時間に他人さんが家に入ってきて、当たり障りのない雑談をしながら気をつかって家事をお願いするだなんて。考えただけでもストレスで悶絶するわ。
私の義父と義母は 簡素な家で こじんまり丁寧な暮らしを続けていた
義父は80歳を越えていたけれど壮健で、料理・洗濯・庭掃除はもちろん、遠方の美味しい肉屋まで自転車に乗って買い物に行くような人だった。
手際よく作られた料理の出来栄えは、大正生まれの男性が作ったとは思えない見事さ。長年やってきたんだなとすぐ分かる味だった。
ありがたいありがたいと言い続ける妻。何も言わず当然のように家事をやっている夫。
古い木造の家はつつましやかで簡素な作り。小さな庭にはネギの根っこを植えてある。若い頃に自作したらしい物置きには、きれいに洗ったプリンのカップまで丁寧に納められていた。
『北の国から』で五郎さんが建てたような小さな木造住宅に住む老夫婦。家をきれいに掃除し、庭を有効活用し、浪費をせず、お互いをいたわり合って静かに暮らす老夫婦。
「ありがたい、お父ちゃんのお陰で私はこんなに幸せに暮らしていられる。本当にありがたい」
80歳に手が届こうとしている義母の指は、第一関節が45度近くも曲がっていた。関節リウマチだ。痛いに違いない。10本の指は右に左に曲がっている。
そんな状態だったので、健康に恵まれてたとは言えないけれど、義母は日々感謝と安心感に包まれて暮らしていた。幸せだったんじゃないかと思う。介護が必要な状態ではなかったけど、あの指では包丁を持つことすら難しい。義父に家事能力があったおかげで、毎日手作りの料理を食べられ、清潔な衣服と住居の中で生活してこれた。
私の夫は歯科医の娘さんとお見合いをし、家が貧乏だという理由で破談になったんだけど
そういや、私の夫が私と出会う前に1度お見合いをしたという。当時の夫は30代後半。相手の女性は34歳。歯科医の娘さんだと聞いた。
いい具合に話が進み、そろそろ決まるかな・・・と思っていた矢先、残念なことに先方からお断りの連絡がきた。
どうやら内々に夫の実家、つまり木造の古ぼけた家を見に来たようで、「こんな貧乏な家の息子なんか止めなさい!」ってことで破談になったという。
儲かってる歯医者の両親からすれば、粗末な小屋くらいにしか見えなかったに違いない。確かに古い木造の平屋建て。小さな家だった。裕福な暮らしをしているようには見えない。だから、歯医者さん一家の気持ちは分からなくはない。
けれど、彼らの目には掘立小屋にしか見えなかった家の中で、お互いをいたわり合いながら暮らしている人達がいるってことには興味がなかったんだね。
まあ、見合いだから仕方ない。出会って3か月で、結婚する気があるのか相手に伝えないといけないんだから。両親がどんな暮らしをしているのか、その息子がどんな風に育ってるのか。そこまでじっくり確かめる時間はないんだ、お見合いって。
でも、その話を聞いた時
「理由はともかくとして、破談にしてくれてありがとう」
と心の中で私はちょっと感謝した。
夫との出会いはお見合いで、交際から結婚までは半年ほどだった。同棲はしていない。だから、お互い相手のことをあまりよく知らないまま結婚した感じだ。
なので、夫が家事を親から仕込まれていたことを知ったのは結婚後のことだ。健康とは言えなくなった今、夫が家事を当たり前のようにやってくれることが心からありがたい。義父の背中を見て育ったんだね。
健康に恵まれなかった代わりに 私は夫に恵まれたと思ってる
身体の大きい私と並ぶと夫は小さい。お金を配るほどの稼ぎもない。
でもいいんだ。世間相場的に夫がどう見えてるかなんて、どーでもいい。私より大きな男が怖い。子供の頃に大人からひどい目に遭わされたから、自分より背が高い人はダメなんだ今でも。「あらら、旦那さん、奥さんよりも小さいのねw」とか思われてるかもしれんけど、私がよければそれでいいの。
お金だって、自分たちが暮らせるくらいで十分なんだ。ちょっとした贅沢はポイ活で叶えてるしね。
だから私も、いま義母と同じことを思っている。
この人がいるから、私も幸せに暮らさせてもらってます。ありがとうございます。
ジョギング帰りに買い物をしてきた夫が今帰ってきた。そろそろ夕食の準備が始まる。手伝いにいこう。楽しいんだよ、料理を作りながらあれこれ話をするのって。
いざとなったら家計を支えられる妻でありたいと私は願った
夫ばかりに寄り掛かるのはフェアじゃないよね。働けない事情がある場合を除き、旦那さんになにかあった時には、家計を支えられるだけの能力と気概が奥さんにもないとな。やってもらって当たり前って考え方は、いずれ夫婦関係を冷やして壊すタネになるしね。
夫婦の間でも困った時はお互いさま。
たとえば、新しいことに挑戦するために会社を辞めたいと旦那さんが思ったとき。稼げる女が奥さんならば、生活費が心配で仕事を辞められない、なんてことはなく、夢を諦めずに生きていくことができるだろう。
そして、人生を振り返る年齢になった頃、その旦那さんはほのぼのと思うんじゃないかな。「あの時、自分の夢に挑戦できて本当によかった」と。それが成功であろうと失敗に終わろうと、夢を潰さずに済んで幸せだったなと。
私の夫は15年前に独立し、70歳目前の今も海外企業から仕事を受注して嬉しそうに働いてる。私も本当に嬉しいよ。夫の夢を潰さずに済んだことが本当に嬉しい。
あの頃の私は元気に働けてたから、数年くらい儲けが出なくても私の収入で食える。だから「思い切ってチャレンジしてみたら?」と迷いなく言えた。そんな頼もしい時代が自分にもあったことが本当に嬉しいんだ。
今は家事もできない無職の病人だけどね。だからなおさら、昔の私が夫にとって、ちょっとした財産になっていたとしたら幸せだな。
あなたなら、結婚相手に何を望みますか?
老後が見えてくる年齢になった時、どんな思いで暮らしていたいと思いますか?
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